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【映画】異人たち~あらすじと感想~孤独な魂が出会い、繋がる。だが……

映画『異人たち』あらすじと感想

映画『異人たち』は、2023年公開、アンドリュー・ヘイ監督、アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ出演によるファンタジー系ヒューマンドラマ。

原作は、山田太一による『異人たちとの夏(新潮文庫)

映画『異人たち』あらすじ

脚本家アダムはロンドンのマンションに一人で暮らしていた。

ある日、アダムのもとを同じマンションに住むハリーという男性が訪れる。

謎めいたハリーとの出会いと交流。時を同じくして、アダムは幼いころに死別した両親と出会う。

ハリーや両親たちとの交流により、固く閉ざされていたアダムの心は解きほぐされてゆくのだが……。

映画『異人たち』ネタバレ感想

映画『異人たち』のネタバレを含みます。

淋しさの理由

アダムは母に自分がクィア(ゲイ)であることをカミングアウトした際、淋しさとゲイであることは別物だと語っている。

淋しさの理由。それはおそらく、世界が本当の自分を受け入れてくれないこと、そして、カミングアウトしたら愛する人たちが離れていってしまうかもしれないこと。

実際、アダムは子供の頃に、男らしくない、女々しい、などという理由でいじめられている。

また、母親にカミングアウトした際、一時的とはいえ、母親はアダムと距離をとった。

しかもアダムの場合、カミングアウトできたのは両親の死後。両親が無くなってから数十年、アダムは両親にカミングアウトできなかった、本当の自分を知ってもらえなかったことを悔やみ続けている。

世界で最も自分を愛し、受け入れてくれるであろう両親にカミングアウトできなかった。では、他人に対してカミングアウトしたらどうなるのだろう。

いじめられた経験から、アダムは他人にカミングアウトすることを恐れていたのかもしれない。当然だ。たとえいじめられていなくても、自分がクィアであること、マイノリティであることを告白するのは勇気がいるし、怖い。

アダムは自分から世界と距離をとった。自分を世界から隔離した。自分から孤独に生きることを選択した。

だが本当は、そんな選択をしなくてもよい世界が理想であり、当たり前ではないだろうか。

性的マイノリティだけではない。穏やかでまじめで、でも少しだけ他人と違う。ただそれだけの理由で淋しく孤独に生きなければならない世界。なんて冷たい世界なのだろう。

見つけて

アダムがハリーの死体を見つけたとき、ハリーは、見つけてもらえなかったことの淋しさのようなものを口にする。

ハリーが見つけてほしかったもの。それは二つあったように思う。

一つは、自殺した自分の体を見つけてほしかったこと。

もう一つは、生まれてから今まで感じていた、本当の自分を受け入れてくれる人に自分自身を見つけてほしかったこと。

自殺した自分の体を見つけてほしいという思い。

ハリーが自殺した場所は自分の家の中。人里離れた山の中などの人目につかない場所ではない。探そうとする人がいれば、簡単に見つかる場所だ。

それなのに、ハリーの死体は、いったい何日、何週間、もしかしたら何か月、あの場所に放置されていたのだろうか?

ハリーが世界から消えてしまったのに、誰も気づかない。気づいていればハリーの死体はすぐに発見されていたはずなのに、アダムが見つけるまで放置されていた。

世界から自分という存在が消えてしまったのに、誰にも気づいてもらえない。なんて悲しく淋しいことだろう。

この『世界から消えた。自殺したのに、誰にも気付いてもらえない』ことが、ハリーが抱えていた孤独を表していると思う。

結局、ハリーは誰とも、おそらく両親とも、強く繋がることなく生きてきたのだろう。

二つ目の、本当の自分を受け入れてくれる人に見つけてほしいという思い。

ハリーと両親との関係は、クィアであることを話題にしなければ、良好であったようだ。

だが、ハリーからすれば、両親との間に距離を感じていたのではないだろうか。

クィアであることを受け入れてほしかった。認めてほしかった。でも、ハリーにとって重要な『クィアであること』は受け入れてもらえなかった。

ハリーはアダムを見つける。おそらく、ハリーはアダムに対し、もしかしたら自分と同じかもしれないと思ったのかもしれない。

だが一度は拒絶され、絶望したハリーは自殺した。

それでも、ハリーは霊となり、アダムと結ばれた。やっと『本当の自分』を受け入れてくれるアダムに見つけてもらえた。

ハリーはどれだけ嬉しかったことだろう。

幼いころから孤独に生きてきたハリー。

たった一人の『本当の自分を認め、受け入れてくれる人』がいるだけで、ハリーの心は幸福や安心感で満たされたことだろう。

人の世は、星が散らばる宇宙のよう

映画『異人たち』のラストは、抱き合うアダムとハリーが光の点となり、まるで宇宙に輝く星の一つになったかのような映像で締めくくられる。

あの一つ一つの星が、アダムとハリーのような『人』であるとしたら、世界は無数の星が散らばっていると読み取れる。

同じ空間に存在している。だが、一つ一つの星の間は、果てしなく離れている。人間とはなんと孤独なものなのだろう。

しかも、アダムとハリーの『星』には二人しかいない。その二人のうちの一人、ハリーはいずれ消えてしまう。『異人』なのだから。

残されたアダムはどうなってしまうのだろう。

世界という宇宙の中でたった独り。両親やハリーとの思い出を抱きながら、孤独に生きてゆくことになるのだろうか。

クィアである。マイノリティである。生きるのが少し下手なだけ。ただそれだけでなぜこんなに孤独になってしまうのか。

アダムが、そしてアダムのような人たちが、笑顔で手を取り合って生きてゆける、そのような世界になることを願う。

【映画『異人たち』日本語版映画】

【映画『異人たち』原作小説】

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