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【小説】異人たちとの夏~あらすじと読書感想~傷ついた男は異人たちとの交流で癒されていく

小説『異人たちとの夏』あらすじと読書感想

小説『異人たちとの夏』は、著者 山田太一による小説。

小説『異人たちとの夏』あらすじ

シナリオライターの原田は、12歳の時に両親と死別していた。さらに47歳で妻と離婚。静かなマンションで一人暮らしを始めた。

ある日、浅草を歩いていると、父とうり二つの男性と出会う。その男性に誘われて男性宅に行ってみると、そこには母とうり二つの女性がいた。

その日から原田は両親にうり二つの夫婦のもとへ通い始める。

また同時期に、原田は同じマンションに住む藤野という女性と出会い、恋仲になる。

この三人との出会いの後から、原田は次第に衰弱し始めた。だが、原田自身は自分が衰弱していることに気付かないのだった。

小説『異人たちとの夏』ネタバレ感想

小説『異人たちとの夏』のネタバレを含みます。

二つの奇跡

主人公 原田の心には、2つの大きな穴が開いていた。

12歳の時に両親を失ったこと。

47歳で離婚したこと。

心に空いた穴を埋めるように、淋しさを紛らわすように、原田は両親やケイの霊と交流する。

両親の霊の前では、子供の頃に戻ったように振舞う。まるで手に入れられなかった両親からの愛情を取り戻すかのように。

ケイの霊の前では、恋人として振舞う。妻と離婚して一人となった淋しさを埋めるように。

誰だって生きていれば心に空いた穴の一つくらいはあるだろう。多くの人は他の何かに気持ちを向けることで、穴による影響を小さくする。だが、何かがきっかけでその穴に囚われてしまうこともある。

原田の場合、妻と別れ、さらに信じていた人に裏切られたと感じていたところに、両親の霊が現れた。

両親の霊はなぜ現れたのか? おそらく、一人になってしまった息子を何としても助けたいという親心が奇跡を起こしたのだろう。

一方で、もう一つの奇跡が起きていた。ケイの存在だ。

ケイは原田に対して、献身的な恋人だった。だがその目的は、原田を道連れにすること。心を通わせていないと原田を連れていけないから、原田が自分に恋するように仕向けた。

ありがとう

原田は最後に、両親の霊に対してはもちろんだが、ケイに対しても「ありがとう」と言っている。

両親は、純粋に原田を、息子を心配して現れてくれたのだろう。そして、原田も、ごく短期間ではあるが、得られなかった愛情に触れ、心の穴を少しでも埋めることができた。

ではなぜ、自分を道連れにしようとしたケイに対しても「ありがとう」なのか?

ケイの目的はどうであれ、原田はケイのおかげで救われている。

妻も仲間も失い、一人ぼっちになってしまったときに、ケイは恋人としてそばにいてくれた。ケイもまた、原田の心の穴を埋めてくれる存在だった。

異界から現実世界へ

両親とケイにより、異界に触れた原田。この世ならざる世界で原田の心は癒され、そして再び現実世界に帰ってきた。

異界にいた時間、異人たちと触れ合った時間は、原田にとって必要な時間だったのだろう。

現実世界で生きていれば、どうしたって傷つくことがある。心に穴が空いてしまうこともある。

穴をそのままに、もしかしたらさらに拡げながら生きるのは辛いこと。

時には現実から離れることも必要だろう。

現実から離れ、心を癒し、そしてまた現実に戻ってくる。なにも現実で苦しみ続けることはないのだ。

【『異人たちとの夏』日本映画版】

【本作】

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