映画『関心領域』は、2023年公開、マーティン・エイミス原作、ジョナサン・グレイザー監督、 クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー出演による戦時下のヒューマンドラマ。
原作はマーティン・エイミス著『関心領域』。
映画『関心領域』あらすじ
子供たちの笑い声が響く、平和な家。幸福そうな生活を営む家族。
その家の窓からは、収容所の壁が見える。
その収容所からは、悲鳴と銃声が聞こえる。
第二次世界大戦下。アウシュビッツ収容所に隣接する家に住む家族の物語。
映画『関心領域』ネタバレ感想
映画『関心領域』のネタバレを含みます。
常人の反応
第二次世界大戦下。アウシュビッツ収容所で何が行われているか知っていれば、ほとんどの人はそこに近寄りたくもないのではないだろうか。
どうしてもそこに行かなければならなくなった場合、またどうしてもその付近に住まなければならなくなった場合、以下の二つのうちどちらかで対応する人がほとんどなのではないだろうか。
- 耐えられなくなり、逃げる
- 自分なりに己の行為やそこにいることを正当化する
『関心領域』では、前者は妻の母、後者は夫であり収容所の司令官。
母は、家に来た当初は楽し気に談笑していたが、隣接するアウシュビッツ収容所からの音を聞き、そして立ち上る煙を見て、逃げ出すように家を去った。
とても耐えられなかったのだろう。あの音が何の音なのか。あの煙が何を焼いた煙なのか。それを知っていれば、とても耐えられるものではない。
夫であり司令官は、自分の行っていることは正しいと信じ込もうとしていた。だが本心では、ここから離れたいと願っていたのではないだろうか。
転属が決まったことを妻に打ち明けた時、妻は反対した。そんな妻の反応を見た夫は実に意外そうだった。妻もここを離れたがっていると思っていた。妻の反応を意外だと思ったのは、夫自身がここを離れたがっていたから。こんなところにいたくないと常々思っており、妻も同じ気持ちだと思っていたから。
夫は物語の終盤で、あの家に帰ることになったときに嘔吐している。もう、心も体も耐えられなくなっていたのかもしれない。
異常な反応
母や夫とは異なり、妻はあの家に留まることを望んだ。
ここには自分の理想の暮らしがある。妻はそう考えていた。どうやら妻にとってみれば、隣接するアウシュビッツ収容所から聞こえる音も、見える煙も、関心の外にあるようだ。
そもそも、妻はユダヤ人を人間だと思っていたのだろうか?
もとはユダヤ人の物だった服について笑いながら話し、連れていかれたユダヤ人の家にあったカーテンを手に入れられなかったことを悔しがる。
どうも、妻にとってユダヤ人は人間ではない何かだったのではないかと思える。
ユダヤ人が無残に殺されようと自分には関係ない。ユダヤ人がどうなろうと自分の関心の外。冷酷なまでに無関心なのだから、隣接するアウシュビッツ収容所からどのような音が聞こえ、どのようなものが見えても心に届かない。
妻の『関心領域』は、自分と自分の家族のことだけ。妻にとっては、ユダヤ人も、アウシュビッツも、そして自分と自分の家族以外の人のことも、『関心領域』の外で起きているどうでもいいことだったのではないだろうか。
現在へと続く
『関心領域』では、物語の終盤で突然、舞台が現在のアウシュビッツ収容所に切り替わる。
そこでは清掃員の女性たちが床やガラスを掃除している。
その床は、かつて百万人以上もの人々が無残に殺害され、その遺体が積み重なり、焼かれた場所。
そのガラスの向こうには、犠牲になった人々が身に着けていた靴などが展示されている。
清掃員たちにとっては、そこを掃除することは日常。そこで起きたことを気にしていては、とても仕事をすることなどできない。そこで起きたことに無関心でいなければ、とても日常を送ることなどできない。
アウシュビッツ収容所で何があったのか、知ってはいても、気にしすぎてはとても耐えられない。心の中に壁を作り、悲惨な過去を関心領域の外に置かなくては、自分自身がつぶれてしまうのだろう。
どこまで関心を持つか
過去の悲惨な出来事について、そして現在進行形で行われている悲劇に対して、すべて受け止めていたらとても心は耐えられない。
どこかで壁を作る必要がある。
映画『関心領域』での母のように、耐えきれなくなり逃げ出す人もいるだろう。夫のように、自分なりに正当化する人もいるだろう。そして妻のように、完全に関心領域の外のことだと切り捨ててしまう人もいるだろう。
自分には関係ない、と完全に無関心になってしまうのはどうかと思う。
今、苦しんでいる人たちがいる。それは自分ではない。だがそれは「たまたま」自分ではなかっただけのこと。無関心でい続け、放置し続ければ、いずれは自分が苦しむ側になるかもしれない。
すべてに関心を持ち、すべてを受け止めていたらとても心は耐えられない。だからといって無関心でいるのではなく、自分のできる範囲で知り、学び、できることをすることで、世界は少しずつ変わってゆくのではないだろうか。
【原作小説】
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