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【OVA(アニメ)】茄子 スーツケースの渡り鳥~あらすじと感想~夢の終わり、プロの引き際

アニメ『茄子 スーツケースの渡り鳥』あらすじと感想

アニメ『茄子 スーツケースの渡り鳥』は、2007年公開、高坂希太郎監督、大泉洋、山寺宏一、大塚明夫、坂本真綾出演による自転車ロードレース・アニメーション作品。

アニメ『茄子 スーツケースの渡り鳥』は映画『茄子 アンダルシアの夏』の続編
>>映画『茄子 アンダルシアの夏』についてはこちらの記事をどうぞ

OVA(アニメ)『茄子 スーツケースの渡り鳥』あらすじ

ロードレーサーのチョッチにとって、同郷の先輩であり、国民的英雄でもあったマルコが自殺した。

マルコの自殺は、チームが解散されることで岐路に立っていたチョッチに『引退』を考えさせる契機ともなっていた。

悲しみと悩みを抱えたまま、チョッチは所属するチーム『パオパオビール』のメンバーとして、ロードレースに参加するために日本の宇都宮に来ていた。

同じレースに、本来なら出場する予定のなかった強豪ザンコーニが急遽参戦することに。

ザンコーニは、自殺したマルコ同様、輝かしい成績を残すトップスターだが、すでにピークは過ぎていた。

英雄の自殺、チームの解散、過ぎたピーク。

様々な思いを抱え、レーサーたちはレースに臨む。

OVA(アニメ)『茄子 スーツケースの渡り鳥』感想

アニメ『茄子 スーツケースの渡り鳥』のネタバレを含みます。

いつか来る『引退』

『茄子 スーツケースの渡り鳥』のテーマの1つは、『引退』だと思う。

実力のある選手でもいつかは訪れる引退の時。

引き際をどうするのか。『茄子 スーツケースの渡り鳥』でも各人それぞれの考え方で幕引きを考えたり、実際に幕引きしたりしていた。

自殺

国民的英雄マルコが選んだ幕引きは、自殺。

「もう、みんなの期待に応えられない」

「衰えていく姿を見せたくない」

「自転車ロードレース以外に自分の生きる道を見出だせない」

きっと、マルコは葛藤し、苦悩した末に、自殺という手段を選んでしまったのだろう。

何も自殺なんてしなくても……、と周りにいる人は思うかもしれない。

だが、本人からしたら、自分が人生のすべてを捧げてきた世界から引退することは、人生そのものから引退することに等しかったのだろう。

マルコからしたら、ロードレースでトップを走り続けることが全て。そのロードレースから引退することは、生きる意味を失うこと。

生きる意味を失った。だから、自ら死を選んだ。

そして、マルコの死は、周りにいる人達にも影響を与える。

選手として夢を追いかけるのか、人としての幸せを選ぶのか

マルコとは同郷の後輩であるチョッチ。

チョッチが所属するチーム『パオパオビール』は解散が決まっている。

チーム解散後の身の振り方について、チョッチは同じチームのペペに心の内を打ち明ける。

「自転車ロードレースから引退して、家業を継ぐ」

世界中を飛び回る自転車ロードレーサーたち。

結婚して、子供を作り、家族とともに過ごす日々、などというごく一般的な生活もままならないことだろう。

そんな不安定な生活をこれからも続け、いつかマルコのように苦しみ、もしかしたら自分も自殺という道を選んでしまうかもしれないという不安をチョッチは抱いていたのかもしれない。

結局、チョッチがチーム解散後にどんな道を選んだのかは分からない。

だが、ロードレーサーを続けるのではないかと思う。

レース後半、チョッチはマルコの幻影を見た後、明らかに表情が変わった。

そしてラストスパート。諦めた男の姿にはとても見えなかった。

レース後、お寺の住職さんに「人生は楽しくあるべきだ」と語ったチョッチ。

きっと、チョッチなりの『人生を楽しくする考え』を見つけたのだと思う。

英雄の引き際

もう一人、マルコの自殺により強い影響を受けた人物がいる。

ザンコーニ。

世界的なレースを制したこともある実力者。だがピークはすでに過ぎ、以前のような走りはできなくなっていた。

チームにとって、有名選手はいてくれるだけで十分。たとえ勝てなくても、いてくれるだけでチームの名を拡めてくれる。

一方、当の本人にとっては、ピークを過ぎて勝てなくなった後もチームに居続けるのは辛いもの。

チームメイトの中でも特に「勝ちたい」という気持ちの強い人からしたら、勝てない選手は邪魔でしかない。

そして、周りから言われるまでもなく、ピークを過ぎた本人も、勝てないことで苦悩していることだろう。

ザンコーニの引き際。

正直、最初はなぜザンコーニが残り一周を残してレースを終えてしまったのか分からなかった。

いろいろ考え、調べてみたら、『茄子 スーツケースの渡り鳥』の監督である高坂氏のインタビューにたどり着いた。

高坂監督のインタビューを踏まえてザンコーニの行動について考えてみると、やはり、マルコの自殺により自らの引き際を考えての行動だったと考えて間違いなさそうだ。

英雄マルコの自殺。

同じように英雄視され、選手としてのピークは過ぎたザンコーニ。

ザンコーニは、誰もが勝利を諦めた後方集団から一気にスパートをかけ、先頭集団に追いつき、集団に加わることなく抜き去り、ゴールを駆け抜けた。残り一周を残して。

ザンコーニは、この行動で、自らの実力と存在感を示すことで、己の引退に華を添えたかったのではないだろうか?

かつての英雄が選んだのは、衰えた姿を晒して静かに引退する道ではなく、強烈な存在感を残して去る道をだったのではないだろうか?

ザンコーニ自身が胸の内を語るシーンがなかったので、これは私の推測に過ぎない。

ザンコーニの行動は、自殺したマルコに対して、引退して生きることを選んだ意思表示だったのかもしれない。

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