映画『マジカル・ガール』は2014年公開。監督はカルロス・ベルムト。
かわいらしいタイトルの映画ですが、PG12指定の不気味な雰囲気のサスペンスです。
映画『マジカル・ガール』あらすじ
不況がいよいよ深刻化するスペイン。
元教師で今は無職のルイスは、一人娘アリシアの望みを叶えてやりたかった。
アリシアの望み。それは、大好きなアニメ『魔法少女ユキコ』のコスチュームを着て踊ること。
アリシアは白血病にかかっていて、もう長くはない。
ルイスは、愛する娘の最後の望みを叶えてやりたいと、インターネットで『魔法少女ユキコ』のコスチュームを検索する。有名デザイナーの一点物であるコスチュームはあまりにも高額だった。
ルイスは無職の上、国全体が不況で仕事もない。本を売るなどしてお金を作ろうとするも、とても足りない。
ついにルイスは、ある宝石店に強盗に入ろうとする。だが押し入ろうとしたその時、上から落ちてきた吐瀉物を浴び、正気を取り戻す。
その吐瀉物は、宝石店のある建物の上階に住むバルバラという女性が吐き出したものだった。
ルイスに謝罪するバルバラ。バルバラはルイスを自宅に呼び、汚れた服を洗濯し、シャワーを貸す。
この出会いから、ルイスとバルバラの運命は悲劇へと転がり落ちていく。
映画『マジカル・ガール』感想
映画『マジカル・ガール』のネタバレを含みます。
あえて観せないという演出
映画『マジカル・ガール』では、あの部屋の中でバルバラが何をされたのか、全く描写されなかった。
ヒントになるようなセリフはいくつかあったが、答えに繋がる明確なヒントは無く、具体的なことは分からないまま。
おそらく、SMとか、リンチとかの、金持ちが変態的欲望を満たすために行っている残虐な行為であることは間違いないだろう。
では、映画『マジカル・ガール』では、あの部屋の中で行われたことをなぜ描かなかったのか?
答えとして考えられるのは「描く必要がないから」ということ。
映画『マジカル・ガール』で必要だったのは、バルバラが数時間でお金を稼いでルイスに渡すこと。そして、そのお金を稼ぐ過程で、バルバラが重症を負うこと。バルバラがお金を稼いだ手段は何だってよかったのだろう。
私たち視聴者は、バルバラが不気味な部屋に入っていくこと、その部屋に入ることを強く止められたこと、そしてその部屋に入った結果、バルバラは大金を得たけれど、同時に重症を負ったことだけを観せられる。
バルバラが部屋に入ってから出るまでに何があったのか、私たちは想像するしか無く、そのことがかえって不気味さを増長させていると言えるだろう。
愛するがゆえに
映画『マジカル・ガール』では、ルイスがバルバラを恐喝し、ダミアンがルイスとアリシア、そして店員を殺害する。
ルイスの詳しい過去は分からないが、元々はそれほど悪い人間には見えなかった。
白血病の娘を大切にし、先の短い娘のために何とかお金を工面しようとしている父親。ただ、まともな方法、例えば、自分の持ち物を売ったり仕事をしたりするだけではどうしようもなく、思い余って恐喝をしてしまった。
もしもルイスが普通に仕事をできる環境であれば、ルイスは恐喝などしなくてもアリシアの望みを叶えることができたかもしれない。
貧困、アリシアの望みを叶えたいという想い、そして残り少ないアリシアの寿命。追い詰められたルイスは正常な思考を失い、既婚者バルバラの方から誘ってくることで始まった不倫をネタに恐喝に走ってしまった。
また、ルイス、アリシア、そして店員を殺害したダミアンも、決して根っからの悪人には見えなかった。
ダミアンがなぜ服役していたのか。バルバラのため、ということくらいしか語られていないが、バルバラの様子から、過去のダミアンは決して悪人ではなかったと思われる。
そんなダミアンでも、バルバラが重症を負わされ、性的暴行を加えられたと知り、常軌を逸し、銃を持ってルイスの前に姿を現す。
ダミアンが店員を殺害したのは、目撃者を消すためだろう。アリシアを殺害したのは、顔を見られたから、そして、もしかしたら、一人遺されるアリシアを悲観してのことだったのかもしれない。
殺人犯に成り下がり、ルイスがバルバラを恐喝していたネタ(携帯電話)を手に入れたダミアン。
ダミアンは、その携帯電話をバルバラのもとに持っていくのだが……。
終わらない恐怖
ダミアンがルイスから携帯電話を奪い、その携帯電話をバルバラに渡して、バルバラの心配事は解決、とはいかなかった。
ルイスの携帯電話は、バルバラを自由に操ることが出来る魔法の道具。魔法少女のステッキのようなもの。バルバラに対して好意を抱くダミアンが、そんな便利なものをバルバラに渡してしまうわけがない。
おそらくダミアンは、最初はバルバラを酷い目にあわせたルイスへの復讐のために動いていたのだろう。
ところが、ルイスから真実を知らされたダミアンは、心変わりする。携帯電話の存在を知ってしまう。その携帯電話があれば、バルバラを思い通りに出来ることを知ってしまう。
かくして、心変わりしたダミアンはルイスを殺し、バルバラを自由に操れる魔法の道具を手に入れてしまった。
バルバラはダミアンを利用して、ルイスからは自由になった。
だが今度は、バルバラはダミアンに弱みを握られ、ダミアンから、いつ、どのように、何を命令されるか分からなくなってしまった。
バルバラの罪
バルバラは、ダミアンに対して、明確な真実を語らなかった。
まるで、ルイスがバルバラに暴力を振るい、性的暴行を加えたかのような話し方でダミアンを利用しようとした。
バルバラは、自分が自由になるために、わざと真実をぼやかしてダミアンを利用したのだ。
けれど、バルバラの思い通りにはならなかった。真実を知ったダミアンに、弱みである携帯電話を握られてしまった。
バルバラを恐喝して娘の望みを叶えようとしたルイス。そして、ダミアンを騙して助かろうとしたバルバラ。
他人を貶めて幸福を手に入れようとした二人は、結局、幸福どころか更なる不幸へと堕ちることになった。
【本作】
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